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一般財団法人国際健康医療研究所理事長
医学博士・米国公衆衛生学博士 水上 治


ウイルスとの共生しかない


ウイルスについての誤解が蔓延しています。見えない敵に怯えすぎていないでしょうか。

ウイルスは無から生じたものではなく、人類の歴史とともに、元々あったものです。しかも、大半は無害で、むしろいいこともしているのです。


新型コロナウイルスもコウモリが持っていたもので、長年人にとっては、単なる風邪のウイルスだったものが、突然変異をして毒性が強くなりました。ウイルス学的には、日常普通に起きていることです。

専門家によれば、人間の1個の細胞当たり10個以上ウイルスが共生しています。人体の細胞は37兆個前後、腸内細菌細胞は100兆個とも1000兆個と言も言われますので、人は一人当たり少なくとも1000兆個くらいのウイルスを持っていると計算されます。

信じられない数字ですが、共生すればよい、と言うよりも、すでに共生していることを認めるしかありません。


なぜ人にウイルスが存在するのでしょうか。

遺伝子は親から子への垂直関係で情報を伝えますが、ウイルスは感染させることで、そのRNAやDNAを水平に伝搬する機能を持っています。

実は、生命を維持したり、改善するために、ウイルスは生体に遺伝子を運びます。胎児は母体にとって免疫学的に異物ですが、胎児を特殊な膜が守っています。

この膜の形成に重要なシンシチンというたんぱく質が、ウイルス由来の遺伝子によることが分かってきました。


長い人類の歴史の中で、どんなウイルスとも人類は何とか共生してきました。

新型コロナもいずれは共生に入ります。多くの人が知らぬ間に感染し、抗体を作って自然治癒します。新型コロナは常在する感冒ウイルスとなるでしょう。


人間がウイルスを制御できると思ったら、傲慢です。私は医師として、抗ウイルス剤やワクチン等の開発使用を否定しません。しかし、抗生剤の乱用が耐性菌を創ったように、目先ばかり考えていると、ウイルスの生態系を侵すことになりえます。


我々は現実を直視し、ウイルスとの共生を認めるしかありません。私たちの内外はウイルスだらけで、絶対に逃げ切れないのですから。