水上先生


一般財団法人国際健康医療研究所理事長



医学博士・米国公衆衛生学博士 水上 治


感染確率を語れ

ジョルジョ・アガンベンというイタリアの哲学者は、コロナ感染拡大の最中の3月に、怒りを込めて言いました。「死者が葬儀の権利を持たない。」 誰でも、愛する人に見守られて逝きたいはずです。死者は息をせず、ウイルスを排出しませんから、着替えて、皮膚を消毒すれば、普通に葬式ができます。わが国でも、骨になって帰宅した人がいます。状態に応じた感染確率が、専門家によって語られていません。


コロナウイルス感染が成立するためには、たっぷりのウイルス量が必要で、あるデータだと100万個以上といいます。咳によってウイルス1万個が空中に飛び散っても、直ちに霧散しますので、傍の机の表面のウイルス量は1平方センチ当たり、ほんの数個で、それが手について口に入る確率を専門家が語るべきです。感染患者のいる病院と、スーパーなど一般社会とは、ウイルスに遭遇する確率が全く違います。家や学校で机の上を絶えず消毒する必要はありません。感染者の多い東京だって、人口にくらべまだまだ少ないので、ウイルスが街に蔓延しているわけではありません。


ウイルスは遺伝子そのもので、細胞に入らないと増殖できず、次第に活性を失います。外気では、飛沫は直ちに空気中で霧散し、隣人を感染せしめる量には到底達しません。ですから、外でマスクが必要であるという科学的証明はありません。ジョギング中のマスクは酸素不足を招き危険です(中国ではN95と言う高性能マスクでジョギングし3名死亡と報道されました)。海水浴やサーフィンなどでは、風は強いし、感染が成立するいかなる根拠があるのでしょうか。私はインフルエンザや麻疹でも、外で人を感染せしめた事例を知りません。ごく小さな確率で交通事故に遭うと言っても、誰もあまり心配しないでしょう。


今回、ウイルス感染防御学の専門家が日本にほとんどいないことが露呈しました。我々医師は患者の前で、様々なリスクを瞬時に数字で考えます(医学部では、確立統計学が必修です)。専門家は定量的な感染リスクを語り、人々の過剰な恐怖を減らすべきです。