水上先生


一般財団法人国際健康医療研究所理事長
医学博士・米国公衆衛生学博士 水上 治

1. 与えられたいのちをどう生きるか

2)いのちの不思議
 生まれたてで元気に泣いている赤ちゃんはいのちを連想させますが、不思議なことに、1年前にはこのいのちはなかったのです。精子と卵子が受精し、1個の細胞から細胞分裂が始まり、200種類以上の細胞に分化してミニ版のあらゆる臓器を創り始め、胎児がゆっくりと成長し、極小の心臓が動き出し、手足ができ、脳が大きくなり、胎動を始め、羊水が貯まり、臨月に誕生に至り、母乳しか受け付けない脆弱な赤ちゃんが日々たくましく成長し、知恵をつけ、大人になっていく。この至極当然の過程も、よくよく考えれば、全く奇跡的なことです。

 人間の体はどうしてこのようにうまくできているのでしょうか。いのちはなぜ成長するのでしょうか。1個の細胞を無数に増加させ号令に従うかのように正確に体を創っていく司令塔は何でしょうか。いのちの根源は一体何なのでしょうか。全く何もわかっていません。
 医師として患者さんを診ていて毎日驚くのは、人間の生命力、いのちのすさまじさです。骨折してもちゃんとくっつきます。転んで膝をすりむいても、勝手に出血は止まり、肉芽が盛り上がり、元通りになります。外科手術がうまくいくのも、切除部位の修復と言う治癒力があるからです。
16世紀のフランスの偉大な外科医アンブロワーズ・パレが言ったように、「我包帯するのみ、神癒したもう」です。
インフルエンザだろうが新型コロナだろうが、罹っても大抵の人は1週間もすれば自然に治ります。末期的ながんでも難病でも、時に完治するのは、いのちのおかげと言えます。言うまでもなく、我々の体の自己治癒力は、生命力あるいはいのちと言い換えても良いでしょう。私たちは病気にかからないよう、罹っても治るよう、実にうまく設計されているのです。当初から、遺伝子などにこの重要ないのちの情報が書き込まれていると言えます。いのちによって生かされていることに感謝あるのみです。
 
 健康の原点、それは、いのちです。