水上先生

一般財団法人国際健康医療研究所理事長
医学博士・米国公衆衛生学博士
水上 治

3.いのちは機械ではない

1) 機械論的生命観の間違い
有史以来人間は創造神を信じてきましたが、18世紀のフランスの医師にして唯物論者のド・ラ・メトリは、人間機械論を唱えました。人間という生命体も理性ですべて解明できるとしたのです。「人間は極めて複雑な機械である」「超自然な、それ自身としては理解しがたい事物を解釈するに当たって、各人が自然より受けたる理性の光を用いることである」。
 
医学は、人間機械論に基づいて発展してきました。簡単に言えば、部品交換の医学です。科学は分析が得意ですから、いのちも極限まで分析すれば本質がわかると信じ、分子や原子レベルまで細胞を分析してきましたが、それにもかかわらず、いのちの本質はまったく解明されていません。

心は人体の分析では説明不能です。むしろ分析すればするほど、いのちの本質がわからなくなってしまいます。いのちはジグゾーパズルの組み合わせではなく、合成することはできません。

2) 絶妙なホメオスターシス
アメリカの生理学者ウォルター・キャノンが1932年に提唱した概念です。いのちには、たとえ何か突発的なことが起きても、元通りに治そうとする力が働きます。これをホメオスターシス(恒常性維持機能)と呼びます。広い意味での自然治癒力ともいえます。血液の酸塩基平衡・止血機転・そして、体温・自律神経系・血圧・消化機能・循環機能・排泄系・内分泌系の調節など無数にあげられます。当然なことのようで、実に人体は驚くばかりにうまく機能しています。

私たちが健康的な生活ができるのは、体のホメオスターシスによっています。もしこの機能がなければ、人はいのちを一瞬たりとも保つことはできません。しかし最新医学も、ホメオスターシスの本質を明らかにできません。私たちはホメオスターシスに感謝しなくてはなりません。