水上先生

一般財団法人国際健康医療研究所理事長
医学博士・米国公衆衛生学博士
水上 治

5. ミトコンドリアを活性化する

3)ミトコンドリアの量と質

ミトコンドリアが効率よくATPを作る際に、ブドウ糖をいったん電気エネルギーに変えているのですが、このとき活性酸素を少量生み出してしまいます。呼吸で取り込んだ酸素の1~2%がミトコンドリアで活性酸素になってしまうのです。

活性酸素とは体を酸化させる有害な物質と思っている人が多いと思いますが、実際はがん細胞や細菌を殺すなど、いいこともしています。また、体に活性酸素が増えないように、活性酸素を消去する酵素がしっかり働いていまので、わずかの活性酸素は体に悪影響を及ぼしませんので、ご安心ください。

質のいいミトコンドリアだと効率よくエネルギーを作り出して活性酸素を少なくし、健康長寿をもたらしやすくなります。質の悪いミトコンドリアならエネルギー効率が悪いうえ、活性酸素を増やしてしまうので、老化のスピードを速めてしまいます。


4)ミトコンドリアと病気

いろいろな病気はミトコンドリアの数と質の異常から来ることがわかってきました。

パーキンソン病は古くなった脳のミトコンドリアを除去できない病気です。認知症は脳のミトコンドリアの数と質の低下が背景にあります。脳のミトコンドリアが増えると、脳が使えるエネルギーが増えるので、認知症を防ぐだけでなく、脳の機能全体がよくなり、記憶力改善、集中力増加、発想力増強、良眠などが期待できます。

 がん細胞は正常細胞と異なる代謝活動をしています。正常細胞は酸素の下でブドウ糖から多量のATPを創りますが、がん細胞は低酸素状態でブドウ糖から少量のATPしか創りません。そのため多量のブドウ糖を取り込むことで補おうとします。実はこの原理を応用したのが、PET-CTによるがん検査です。がん細胞がこのように非効率な代謝を示すのは、どうもがん細胞仲間を増やすためであることが次第にわかってきました。

また、がん細胞のミトコンドリアは小さくなったり破壊されたりする異常が見つかっています。ミトコンドリアの異常はがん細胞の増殖に都合がいいのです。そこで、がんの新しい治療法として、ミトコンドリア活性を高めることでがん細胞をコントロールできるのではないかという考えが出てきました。今後の研究が期待されます。